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「古老百話」明治37年(1904)
/越中史談会編/には、元富
山藩士の古老談として、山口
卜真斎が小田原出身で鶴岡
八幡宮に参籠したと記載があ
る。













無外流兵法譚
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辻月丹はここにいる
 無外流祖・辻月丹物語
        青雲の章   第八回




岩尾山

伊藤将監のもとで修行中の辻月丹に、新たな動きが見られるのは、入門から五年後の寛文五年(1665)のことです。「雑話筆記」によれば、この年十八歳になった辻月丹は近江の岩尾山へ籠もります。

「其の間の労苦挙げて云う不からず。然れども其の堂に入り尚其の室を窺うに至らず。十八歳の秋奮然自ら我心の動静を試みんと欲し江州岩尾山に登る。」

例えば沢庵宗彭(たくあんそうほう 1573〜1646)の剣法論によれば、剣法の術技に習熟するだけでなく、生死を賭ける血戦の場で動揺しないためには、自己を超えた絶対の心的境地を開く修養が必要であるとされています。武術発生初期の武芸者は、超自然の神秘的な対象から超人的なエナジーを獲得しようとしたのです。さらに江戸時代中期以降においては、超自然からではなく、心を磨くことによって人間の奥に眠っている力を自力で開悟することが出来ると説かれるようになります。
その方法の一つが禅です。

じつは、「月渓随筆」では十八歳ではなく、前述したように十六歳で免許皆伝を授かり、伊藤将監の勧めで兵法修行の旅に出ることになります。
このシーンは、「武芸流祖録」では伊藤将監の台詞を次のように描写しています。

「其の方の上達驚き入る。此上には我等が弟子と為すべき人とも思わねば、なに分諸国を廻りて好きに師を求めよ」

入門して五年経っても満足できずに山籠もりする「雑話筆記」と、三年で免許皆伝して師の元を去る「月渓随筆」と、どちらが真実なのかはわかりません。ただし、「月渓随筆」では、四十歳過ぎにようやく江戸にやって来るという点は、ほかのエピソードと併せて考慮すれば明らかに矛盾するため、ここでは十八歳で岩尾山に籠もったという説を採用することにします。




    鶴岡八幡宮(鎌倉市)
  斎藤伝鬼、山口卜真斎、辻月
  丹の伝説に共通した唯一の場
  所である。

古武術流派の発生時期において、流祖の多くはその超人的なエネルギーの発揮方法を神仏の霊感によって獲得した、と仮託(かたく)される話には枚挙(まいきょ)にいとまがありません。
愛洲移香斎や念阿弥慈音は日向国鵜戸(うと)権現で霊夢を得、飯篠長威斎は香取・鹿島の両神に祈り、塚原卜伝は鹿島の神託を授かり、斎藤伝鬼や伊藤一刀斎や山口卜真斎は鎌倉鶴岡八幡宮に参籠して妙旨を得たといい、上泉伊勢守が京都の賀茂社に、夢想権之助が筑前宝満山に、林崎甚助重信が林崎明神に、片山伯耆守久安が阿太古(愛宕)社に...といった具合です 。

辻月丹が神託を授けらるために修行した場所については複数の伝説があり、岩尾山のほかに、洛北の愛宕山、鎌倉鶴岡八幡宮と湘南江島神社、そして禅修行に明け暮れた麻布吸江寺もこれに含まれるでしょう。

 
      葛飾北斎 富嶽三十六景 「相州江之島」

岩尾山は甲賀郡の南西部に位置し、三重県境にそびえる標高471メートルの、その名のとおり岩で覆われた霊山です。平安時代初期に最澄(伝教大師)が開山しました。以来、修験者、忍者の修練山としても知られています。辻月丹も山口流剣術にある密教修行のカリキュラムの一環として、超自然的なエナジー獲得のための入山と考えられます。

山の中腹には屏風岩などの奇岩が点在しています。馬の形をした「おうま岩」、扇を開いたような「扇岩」や、たたくと木魚の音がする「木魚岩」など、その名もユニークです。また、頂上からの眺めは360度の大パノラマ。眼下には杣川沿いに平野が広がり、遠くには鈴鹿山系を見渡すことができます。岩尾山の麓には、明治年間に農業灌漑(かんがい)用としてつくられた岩尾池が広がっています。



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