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 無外流祖・辻月丹物語  

        不死鳥の章   最終回

 〜 中川伸一と無外流居合兵道 〜


明治36年(1903)になると、高橋赳太郎は設立されたばかりの神戸高等商業学校(神戸大学法・経済・経営学部の前身)の初代撃剣師範(後、終身師範)となり、いっぽう兵庫武徳会の主任教師も兼任します。

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高橋赳太郎と中川申一が
出会う兵庫武徳会
高橋赳太郎は、明治末の兵庫武徳会で、後に『無外流中興』と言われることになる神戸一中(現・県立神戸高校)の学生だった中川申一と出会います。この頃は、まだ学校の授業の科目として、あるいは撃剣(剣道)部の稽古を通じての師弟の関係でした。しかし、中川申一が神戸高商に進学すると、本格的に無外流兵法を教授することになります。

高橋赳太郎は、日本と世界が泥沼の戦争に進んでいた昭和15年(1940)に、82歳の天寿を全うしました。死の二年前、すでに『無外流居合』と名を変えていた自鏡流居合の座技「本腰」「片腰」「向抜」「左」「右」「六本目」「七本目」の七本の形を自ら演武し、16ミリフィルム映像を残しています。
無外流兵法譚
日本の古武道シリーズより
高橋秀三『無外流居合術』
土浦藩から継承された自鏡流居合を、『無外流居合』と呼んだのは、姫路系では高橋赳太郎が最初と思われます。高橋伝無外流兵法の「刃引之形」五本と、この『無外流居合』七本の形は、中川申一に受け継がれ、やがて「無外流居合兵道」として世に出ることとなります。
また、赳太郎伝の無外流は、孫の高橋秀三にも受け継がれ、「無外流居合術」として広く知られています。


無外流兵法譚
中川士竜申一(手前)
石井悟月善蔵(奥)
中川士竜申一(1895-1981)は、高橋赳太郎から継承した『無外流兵法(剣術)』『無外流居合』の形を編纂し、『無外流居合兵道』として世に送り出した人物です。

無外流居合兵道は、座技 「五用」「五箇」、立技「五応」 「走り懸り」20本と、内伝3本の合わせて23本と、「太刀打之形」、「脇差之形」(共に組太刀)10本の計33本の形で構成されています。
今日、無外流が居合として認識されているのは、ほとんどの場合がこの『無外流居合兵道』のイメージから生じていると言って良いでしょう。

では、『無外流居合』と限定した言葉は、『無外流居合兵道』と同義語と考えて良いのでしょうか?これまで見てきたように、『無外流居合』には、次の4つの意味があると考えられます。

@.無外流居合兵道のこと

A.高橋赳太郎から継承された七本の居合形

B.土佐系無外流の無外流居合兵法

C.無外流兵法(剣術)に含まれていたらしい抜刀形

さて、中川士竜がどのように無外流の形を編纂し、無外流居合兵道を創始したかについては、諸説あるようです。また、そのことに触れた文献についても、自費出版本や会報のコラムのようなものがほとんどで、これについては別に述べようと思います。
普通に出版された物の中では、Darrell Max Craig著 無外流兵法譚Mugai Ryu: The Classical Japanese Art of Drawing the Swordに、興味深い記述があるので紹介しましょう。著者が中川にインタビューしたところ、中川は高橋赳太郎の紹介で川崎善三郎にも師事したそうです。そして、無外流居合兵道の立技「五応」は土佐系無外流の影響を強く受けているようなのです。とくに「両車(りょうぐるま)」「野送(のおくり)」の二本は川崎善三郎の影響が強いようです。著者は、生前の中川に直接話を聞いている人物で、中川の弟子ではありませんから、それなりに客観性のある話ではあります。その通りだとすれば、無外流居合兵道の座技と立技は発生源が別という言い方も出来ることになります。

そもそも、自鏡流居合そのものが江戸時代後期にはすでに失伝していたと思われがちですが、土浦藩系の本家本元では、少なくとも大正時代までは存在していたと考えられるわけです。高橋赳太郎や川崎善三郎のような明治時代の剣客にとっては、今日我々が想像するような「ほとんどの形が失伝状態だった」という状況ではなかったのかも知れません。
我々は、無外流居合兵道を、一般に考えられているよりも古流の面影を遥かに多く残している可能性がある流儀と捉えています。

昭和56年(1981)1月2日、中川士竜申一は86歳で生涯を終えました。

中川士竜の後継者については、いくつかの道統があることを我々は承知しています。代表的なところでは、石井悟月善蔵の系統、塩川寶祥照成(ほうしょうてるしげ)の系統、中川士竜から晩年に皆伝を授かった師範たちの系統があります。そのどれもが、中川の技を正当に継承していることは間違いなく、どの系統も正しいというのが我々の立場です。

例えば、中川士竜から石井悟月への継承が存在した事実は疑いようがなく、中川が著した「無外流居合兵道解説」(昭和35年)の71ページでは、中川自らが石井をはっきりと伝系に加えています(下参照)。また、石井は中川の門下にいた時代から「宗家」を名乗っていることから考えても、中川士竜が次を石井悟月と認めていたことは明白です。

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石井悟月は、中川門下に入る前は、無双直伝英信流の達人と言われた人物です。無双直伝英信流第二十代宗家を名乗った河野百錬門下の序列などを見ても、石井が若くして河野百錬にかなり近い位置だったことがわかります。中川の門を叩いた頃の石井悟月は、その当時の日本を代表する居合の名人だったのです。

石井悟月の次に中川から指名されたのが、当時の無外流居合兵道の最高師範格だった塩川寶祥照成でした。石井を居合のスペシャリストとすれば、塩川は武芸百般ともいうべき人物で、もはや居合という枠だけでは括(くく)れない武芸者です。

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塩川寶祥照成(日本武道館)
第17回全日本剣道選手権大会にて。決勝戦前の特別演武。


塩川寶祥は、昭和という時代に宮本武蔵を彷彿させるような破天荒な武道家人生を送り、その幾多のエピソードはよく知られているところです。居合道は中川士竜、石井悟月、紙本栄一、壇崎友影、河野百錬に学び、杖道は中嶋浅吉、乙藤市蔵、清水骼氈A合気道は植芝盛平、空手道は摩文仁賢和、その他各流儀の大家達から修めた武道は数知れず、創世期の全日本剣道連盟にも大きな足跡を残しました。塩川の人生そのものが、日本の戦後武道史と言っても過言ではないでしょう。
塩川伝の無外流居合兵道は、こうした豊富な武道経験に裏打ちされた実戦本意の動作で知られており、また先代から継承した「裏の形」などを編纂して4本の「奥伝」として加えていることも特徴です。

塩川寶祥の後に、中川士竜が特定の弟子を指名した事実はないそうですが、中川は晩年に六人の弟子に皆伝を授けました。

今日では、中川士竜申一を「無外流中興」と呼ぶようです。それはその通りかも知れません。
しかし、100年後、200年後のこの国の人々に、無外流が認知されているとすれば、それは昭和という激動の時代に無外流を広めた中川を初めとする師範たちすべての功績であると考えます。我々は、彼らすべてが中興の祖だと考える次第です。
そして、四百年前の山口卜真斎から現在まで、誰一人が欠けてもこの物語は成立しませんでした。現在の無外流も、こうした先人たちが開拓した歴史の延長として存在していることを、あらためて知って欲しいと思います。



さて、『無外流祖・辻月丹物語』も今回が最終回となりました。長きにわたり駄文に付き合っていただきありがとうございます。天正十年の山口卜真斎生誕から、四百数十年の流の歴史を超特急で概観してきました。まだまだ書き足りない部分もありますが、いずれ別の形で発表したいと思います。
また、登場する個人にはすべて敬称を省かせていただきました。我々にとっては、徳川吉宗や宮本武蔵のような偉人に敬称をつけないことと同じ思いであり、ご理解を賜りますようお願いいたします。
最後に、この記事の取材には多くの方にご協力をいただきました。その一人一人をここで紹介できませんが、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

                      完


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