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無外流と文殊菩薩 第二回 |
無外流と文殊菩薩の関係で、もうひとつ触れておかねばならないことがあります。 辻月丹の残した「無外真伝剣法訣(けつ)」のなかの「鳥王剣」(ちょうおうけん)の存在です。
武芸の伝書にはいくつかの種類がありますが、流儀の教義・理論・思想などを書いたものを「教義書」(または「思想書」)と言います。「無外真伝剣法訣」は、明らかに「教義書」に分類されるものです。月丹は、技の解説ではなく、精神の伝承を優先したのです。
「無外真伝剣法訣」には、「獅王剣」「翻車刀」「玄夜刀」「神明剣」「水月感応」「虎乱入」「玉簾不断」「鳥王剣」「無相剣」「万法帰一刀」という十則があり、「鳥王剣」はそのひとつです。
まず、土佐山内家に伝わる「無外真伝剣法訣」から「鳥王剣」の文章を見ておきましょう。
正令まさに行ずるに当たっては十方坐断
金翅鳥王は、まさに宇宙にあたる
箇中誰れ是れ出頭の人 (原漢文)
「鳥王剣」の解釈については、別の機会に「無外真伝剣法訣」をまとめて解説するのでここでは触れません。知っておいていただきたいのは、じつはこの「鳥王剣」こそが文殊菩薩の持つ宝剣だということです。文殊菩薩のオリジナルは、古代インドに伝わる伽桜羅(カルラ、ガルーダ)という聖鳥であり、これが中国・唐時代に金翅鳥王(こんじちょうおう)として伝わり大乗仏教に取り入れられたのです。つまり文殊菩薩=金翅鳥王=伽桜羅であり、月丹は自らの教えを、人知を超えた象徴である文殊菩薩の剣にあやかったのです。
じつは、自らの剣と文殊菩薩のイメージを重ねたのは無外流が最初ではありません。たとえば、上泉信綱が柳生宗厳に相伝した新陰流の「影目録」、鐘巻自斎から伊藤一刀斎に相伝された「一刀流兵法目録」にも同様のロジックを確認できます。新陰流も一刀流も、無外流と直接の接点はありませんが、これらの流派で使われたロジックは月丹の潜在意識に残っていたのでしょう。
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