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無外流兵法譚
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辻月丹はここにいる
 無外流祖・辻月丹物語
      噴火の章   第17回

 〜 無外流真伝
      剣法訣とは何か? A 〜


歴史研究全般に言えることではありますが、単独の文献だけで内容を解明することは非常に危険です。まずは、その時代の他の文献でどのように伝えられていたのかを知ることが重要になります。
たとえば、土佐藩の森下権平の道統で目録として作られた「無外流兵法大略」という伝書があります。この書では、無外流の特徴を次のように述べています。

敵ニ因リテ転化ヲナスハ兵法ノ常理ナリ

これだけを読めば、人によっては「後の先」を意識した言葉と考えるかも知れません。しかし、土佐ではこの言葉こそ「先々の先」として教えられていたのです。
こうした真実の教義内容は、単独の伝書をいくら読んでも理解は出来ず、流儀のなかで同じ時代にはどのように教えられていたのかを知ることで、はじめて理解が可能となるのです。

また、出来るだけ多くの人に取材し、複数の立場からの解釈を検証することも重要です。さらに、同時代の代表的な類書との比較をしながら読み進める作業も必要です。
ここでは、「無外流真伝剣法訣」を考える上で、他流の兵法書も比較しながら話を進めていきます。

剣術の免許状や奥義秘伝を記した文書は、履修した技の名称を羅列したフォーマットがよく知られていますが、そうした形式には囚われないものも存在します。例えば、柳生宗矩の「兵法家伝書」や宮本武蔵の「五輪書」なども刀法の技術解説書というよりは、剣術以前の精神や心構えに重点が置かれており、流儀の伝承の証として師から弟子に伝えられました。
こうした伝書が書かれた根本的な目的を考えてみると、辻月丹が「無外流真伝剣法訣」を著した動機と驚くほど似ているのです。

例えば、辻月丹が「無外流真伝剣法訣」の序文に、「十則」をマスターすれば世の中のすべての原理原則に応用できる(「万事に通じる」)と述べているのは、「五輪書」で宮本武蔵が次のように述べていることと共通しています。

此の法を学び得ては、一身にして二十三十の敵に負くべき道にあらず(中略)また大なる兵法にしては善人を持つことにかち、人数を使う事にかち、身を正しく行う道にかち、国を治る事にかち、(中略)何れの道に於いても人に負けざる処を知りて、身をたすけ名を助くる処、是兵法の道也。

宮本武蔵は、兵法には「大なる兵法」「小さき兵法」が存在すると言い、武蔵の兵法を学べば、一人で多勢を相手に勝つことが出来るようになる(「小さき兵法」)ばかりでなく、為政者としての心構えを学ぶことにもなり、社会秩序の維持にも役立ち、人間社会のすべてにの場面に通用する(「大なる兵法」)と主張しています。

また、辻月丹よりやや前時代に生きた剣術家である小田切一雲が著した「夕雲流兵法伝法書」では、夕雲流二世の小田切が、それを著した目的を次のように述べています。

鋳型なくて手離れのしたる兵法故、当流には他流よりは結句心得違ひありて、正脈を取り失う紛れ者の出来らん事を深く恐れて、此の一巻を記す。


     夕雲先生兵法伝法書
つまり、「夕雲流(無住心剣術)は、他流とは異なって形が不定型な流儀なので、その真意が伝わりにくく正しい伝承が失われてしまう恐れがある。だから、この一巻を書いたのである」と主張しています。この理屈は、辻月丹が「無外流真伝剣法訣」を書いた動機とまったく同じで、さらに「夕雲流兵法伝法書」には、形の動作の説明などはほとんどなく、まさに「心法論」と呼ぶべき教義の説明が延々と続きます。とくに17世紀後半の「剣術書」が、必ずしも剣の技法書ではないことは、同時代の多くの流儀で偶然的に発生しており、こうした心法書が目録として用いられていました。

まずは、「技法論」「心法論」という思い込みに囚われずに、その伝書が流儀のなかでどのように語られてきたのかを、可能な限りに目を向けたいと思います。


分かり易い例として、「十則」の6番目の「水月感応」(すいがつかんのう)を見てみましょう。
「無外流真伝剣法訣」の「水月感応」には、次のように書かれています。

六.水月感応
  氷壺無影像猿猴捉水月
 
  (氷壺に影像なく
     猿猴水月を捉う)

「水月感応」という言葉そのものは、「観無量寿経疏」(かんむりょうじゅきょうしょ)がオリジナルで、寓話としても有名なので、とりあえず本来の意味が理解できます。
この後に続くコメントも「唐詩選」や「摩訶僧祇律」から採られていて、それぞれの単語の意味が不明ということはありません。

ここで「水月感応」を例として取り上げたのは、無外流の複数の伝書で教義内容にブレがない点と、単語の意味くらいは確認できる点に加え、この教えがある意味では無外流剣術を象徴していると考えるからです。




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